コロナ禍における認知症の人への支援 〜米国アルツハイマー病協会の提言から〜

浜松医科大学 臨床看護学講座 金盛琢也

米国アルツハイマー病協会(Alzheimer’s Association)からの提言、『緊急時への備え:地域・施設で生活する認知症の人への支援(Emergency Preparedness: Caring for persons living with dementia in a long-term or community-based care setting)』をご紹介します。

認知症の人は高齢で複数の合併症を持っていることから、新型コロナウイルス感染症に罹患すると重症化しやすい傾向があります。さらに新型コロナウイルス感染症の流行は医療・介護従事者の人員不足を招き、普段関わっているスタッフとは違うスタッフが関わるようになることや、スタッフがストレスフルに働いている様子が、認知症の人の混乱に繋がる事態も予想されます。

この提言では、新型コロナウイルス感染症の流行に伴うこのような悪影響から、在宅や施設で生活する認知症の人を守るための支援のポイントがまとめられています。
以下要点をご紹介します。

1.   感染予防

 認知症の人は、手洗いやソーシャルディスタンスの確保など、新しい生活様式に慣れるのに時間がかかります。手洗いや咳エチケットについて繰り返し説明し、また、ソーシャルディスタンスが取れるよう席の距離を空けたり、物品を多人数で共有しないよう感染予防に取り組みましょう。

2.   パーソン・センタード・ケアを継続するための工夫

 慣れ親しんだスタッフが来られなくなったり、知らないスタッフが急に増えることは認知症の人に不安や混乱を与えることになります。新型コロナウイルス感染症流行の影響でやむを得ずスタッフが変わっても、認知症の人が親しみを感じられるようケアするために、事前に認知症の人がどのような人生を送ってきた人か、どのように名前を呼ばれるのを好むか、好きなことは何か、家族や友人の名前などをシートにまとめておきましょう。

3.   家族や友人との繋がりの維持

 コロナ禍においても家族・友人との繋がりを維持することは、認知症の人にとって大切なことです。電話やビデオ面会の機会を設けたり、家族からの手紙・写真を一緒に読むなど、家族・友人との繋がりを感じられるよう支援しましょう。また認知症の人の様子を家族や友人に伝えることも大切です。

4.   適切な栄養摂取

 感染や重症化を予防するためには適切な栄養摂取が特に重要です。認知症の人は空腹感や口渇感があっても自ら訴えないことがあります。タイミングを見て促したり、場合によっては横に座ってお話をしながら食事を勧めるなど、食事・飲水がすすむよう支援しましょう。

5.   安全な徘徊

 徘徊は混乱やストレス、運動不足を背景として生じることがあり、新型コロナウイルス感染症の流行により徘徊が増加する可能性があります。徘徊による転倒や行方不明などが生じないよう、周囲の環境を確認し安全を確保することや、計画的に外出し外で運動するなど予防的な取り組みを行いましょう。

6.   行動や言動の観察

 生活様式の変化やスタッフの感染予防着の着用、新型コロナウイルス感染症の罹患が、認知症の人の怒鳴る、ものを叩くなどの行動の原因となることがあります。このような行動は、伝えたいことがうまく伝わらないもどかしさや、身体的苦痛、満たされないニーズ、感情の表出であると考えられます。認知症の人が何を伝えようとしているのか観察し、理解しようとすることが大切です。

引用文献(出典)
Alzheimer’s Association,
https://alz.org/media/Documents/COVID-19-EmergencyTips_LongTermCommunityBasedDementiaCare_AlzheimersAssociation.pdf

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